ツユクサ科の新しい外来植物の発見

Commelina undulata
R.Brown フジイロタチツユクサ
               (ヤハタタチツユクサ)



 2003年6月24日 北九州市で見慣れないツユクサの花が咲いているのが発見された(図1・2)。この不明種は標本にされケツユクサとして北九州市立自然史・歴史博物館に収められていた。この標本を2009年1月に閲覧する機会があり、その標本を見たところ日本には自生しないツユクサ属と思われた。2009年の6月に花の咲くのを待って詳しく調べた結果、外来種のCommelina erecta L.に特徴がよく似ていることを突き止めた。 しかし近縁種であることも考えられるため、ツユクサ科の分類を専門に研究しているスミソニアン研究所のRobert B. Faden博士に標本と種子を送りさらに調べていただいた結果、C. erecta L.に非常に近縁な種で、アジアからオーストラリアに分布するCommelina undulata R.Brownが妥当であるとの回答があった。 

 本種は花が藤色で茎が立ち上がる特徴からフジイロタチツユクサ(ヤハタタチツユクサ)として紹介する。

※当初は発見場所の北九州市八幡東区にちなみヤハタタチツユクサの和名を与えて報告したが(中村2011)、本種はアジアからオーストラリアに広く分布しており“ヤハタ”では日本での自生地であるような誤解をされやすいため、本種の特徴である花色が藤色を表す“フジイロ”タチツユクサがよりふさわしく、こちらの和名で紹介する。

本種の標本は北九州市立自然史・歴史博物館(KMNH)に収められている(KMNH: 2005330GR02、2009901GR01)。

1.花

花は淡い藤色で、花弁は丸みがあり爪に近い部分がやや濃い紫色をしている。 花の横径は2〜2.5cmで、花全体としては横広くて、ツユクサC.communis L.に比べてひとまわり小さいかほぼ同じ大きさである。(図1-2) 
図1 花は淡い藤色、横径は2.5cm  図2 フジイロタチツユクサとツユクサ:花の比較


6本の雄しべのうち中ほどにあるY字形の雄しべは最も大きくて多量の花粉を出し、よく目立つ。(図3)
前方に突き出した2本のO字形雄しべは大きく湾曲して、Y字形雄しべと向かい合う。(図3-4)

図3 6本の雄しべ 葯と花粉 図4 大きく湾曲するO字形雄しべと雌しべ

花粉を出しているのは、Y字形雄しべと2本のO字形雄しべで、3本のX字形雄しべは仮雄しべで、まったく花粉を出していない。 (図5-7)



 3本とも花粉を出していない 
図5 Y字形 雄しべ 図6 O字形 雄しべ 図7 X字形 仮雄しべ


本種は、花が開いている時間がとても短く、この場所(福岡県)では午前9時半頃には、雌しべと2個のO字形雄しべが巻きはじめ、花弁がしおれてくる。(図8) 10時頃にはほとんどの花がしぼんでしまう。(図9)  

図8 9:30 雌しべとO字形雄しべが巻きはじめる (09/6/28) 図9 9:55 花がしぼんでしまう (09/6/28)

同じ時期に咲いているツユクサは昼頃まで花が開いているのに対し、本種はかなり早く花を閉じてしまう。

2.果実と種子

6月下旬にはすでに果実と種子ができはじめ、12月まで次々と種子を作る。
苞は縁が合着してロート状になり毛が生えている。(図10) 果実には3個の種子ができる。 (図10-11)

図10 ロート状の苞 図11 刮ハに3個の種子

3個の種子のうち2個は、刮ハが開くと落花するが、1個は果実壁に包まれたままである(図12)。 種子は長さ3-4mmで、表面が平滑でうずら模様をしている。 エンブリオテガに近い側面片側に白っぽい付属体(エライオソーム)が張り出している。 (図13)

図12 果実の中に2個の種子 もう1個は果実壁内にある 図13 種子 側面片側に付属体(エライオソーム) 


3.葉と茎

茎は硬くてまっすぐに立ち上がる(図14)。 葉は広被針形で、幅1-2.5cm、長さ〜7cmほどで、茎を抱く部分が広がり小さな耳状になっている。 (図15) 

図14 茎は立ち上がる、葉は広被針形 図15 茎を抱く部分が耳状

本種は多年草で、冬場でも地下部は枯れずに残っている。 昨年の冬(08.12)に枯れかけていた本種の茎を切って植えておいたところ、枯れることなく今年の春に節から新葉が発芽した。(図16)

図16 節から発芽した新葉 (多年草) 09.4.26


4.繁殖状況

本種は花壇内、道路脇、駐車場脇に花を咲かせて繁殖している。 花をつぎつぎに咲かせ種子を作っていて繁殖力がとても旺盛である。 この場所は、2000年頃に改築工事が行われ道路や花壇などが新しく整備された場所であることから、運ばれた土に本種の種子が混ざっていたことが考えられる。 (図17) 


図17 駐車場脇や花壇に繁殖するフジイロタチツユクサ


フジイロタチツユクサC.undulata R.Brownは、つい最近までアメリカ大陸・アフリカが原産のC erecta L.に含まれる種とされていた。C. erecta はたいへん変異に富む種であり、現在どのくらいの種がこのグループに含まれているのか、分布はどうなっているのか未だによくわかっておらず正体を明らかにすることはたいへん困難で今後の研究がまたれる分野である。

北九州市で見つかったこのフジイロタチツユクサは、いったいどこからどのようにして侵入してきたのか、さらに今後国内に分布を広げていくのかについても興味があり継続観察の必要がある。


※ この外来ツユクサは、もうすでに北九州以外の地域にも侵入しているかもしれません。 なにか情報をご存じの方は掲示板( BBS )またはメールにお知らせ下さい。

                                                                     (2009.12.30)
 【 参考文献 】
   ・北村四郎・村田 源 1980. 原色日本植物図鑑・草木編V 単子葉類U.173-174 保育社
   ・佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎 2002. 日本の野生植物・草木T単子葉類73-74 平凡社 
   ・中村功 2011 「外来ツユクサCommelina undulata R.Brownに新和名ヤハタタチツユクサ」わたしたちの自然史 115,11.

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